捨てられない人、ため込んでしまう人
世の中にはたくさんいますので、断捨離なるものがブームにさえなりますし
家丸ごとの業者による片付けが、仕事として成り立ってもいるわけですが
その真逆を行く人が登場する小説を読みました。

森博嗣さん著「相田家のグッドバイ」という家族小説で
これまでに読んだことのないタイプの小説でした。

普通の家庭だったけれど、ちょっと変わった両親。
最後に息子がしたことは破壊か、それとも供養だったのか?

ちょっと変わった両親が登場するのですが
これはすごい!と感心したのは母親です。

彼の母の第一の特徴は、ものを整理して収納することだった。それくらいのこと、綺麗好き整頓好きなら誰でもする。が、彼女の場合、完全に度を越していた。母は、父と結婚して以来、燃えるゴミ以外のゴミを一度も出したことがない。たとえば瓶、プラスティックの容器、ビニルの袋、空き箱、缶、紐に至るまでけっして捨てない。きちんと分別をし収納した。包装紙はテープを取りアイロンをかけて皺を伸ばし正確に折り畳み、輪ゴム一本でさえ太さ別にそれぞれ仕舞った。空き箱の蓋を開けると少し小さい箱が中に収まっていて、その蓋を取るとさらに小さな箱が幾重にも現われた。円筒形のお茶や海苔の缶も同様。家の至るところにそういったものが高密度で収納されていた。七歳年長の無口な父はときどき「こんなものは捨てれば良い」と言ったが、基本的に妻の収納癖に感心していた。——平凡な家庭の、60年に及ぶ、ちょっと変わった秘密と真実とは? 森博嗣の家族小説!

というような母親で、その収納の様子を思い描くうちに
ぜひとも映像化してほしい!とさえ思うほど
高密度にぎっしりと物が収納される様子が描かれていました。

小説としても、非常に面白く一気読みしてしまったんですが
冒頭に書いたとおり、これまで読んだどんな小説にも似ていない
不思議な小説でした。

モデルは著者の家族なんだろうか?
ということが、やたらに気になりますし
高密度な収納がほどこされた家が実際にあり
写真が残っているのなら、ぜひとも見てみたい!
と、思っちゃいました。

両親、そしてその息子それぞれの成育歴が語られ
なぜ、そのように思考するようになっていったのかが
淡々と語られるだけの家族小説なのですが
ページをめくる手がとまらなくなるほどの面白さでした。

何がそんなに面白かったのかを具体的に説明せず
高密度な収納のことばかり書いてしまいましたが
なぜそこまでためこんだのか、という母親の心情が
これか?と思われるシーンもありました。

以下ネタバレです。

この両親は、第一子を乳児のころに病気で喪っています。
物をしまいつつ、そのときのことを思い出していた母親が
「この家から出ていくものは、もう何もない」と
安心する、という描写がありました。

ここで、切ない気持ちになったんですが
ほかの場面はすべて、淡々と綴られる家族の様子を
淡々と読み進めるだけだったんですよねえ。
それでも、とにかく面白い小説でした。


忘れん坊将軍

昭和39年生まれの59歳、専業主婦です。 新幹線、首都高速、武道館などなど同い年のものがたくさんあります。 還暦目前のせいか、あれもこれも忘れてしまう困ったちゃんです。